以前にいた会社の、自分がいた組織の離職者率が増えているのを聞いていると、それまで「働きたい会社」だったのが「辞めたくなる会社」になってきているということなのだろう、ということに悲しくなる。
ベンチャー的な気質をもった会社だと、「この会社、このプロダクトを使って何かをしてやろう」というチャレンジャーが集まり、その“志”がエンジンとなって前進していくものだが、あるタイミングからその会社がメジャーになってしまうと「入りたい会社」となってしまい、学歴だけよかったり、対して仕事ができないのに過去の会社での経歴を“華麗に言う”人間が増えてしまう。つまり実力者が入ってこない。またそういう傾向になると、「マネージャー」という言葉の意味を日本語的「管理」職として「部下からの報告を受ける」というのが仕事と思ってる人間が増えるという傾向があることもわかった。
僕が過去に経験した会社では、予算が行かないときに真っ先に客先にいく部長や、部下の失敗をうまく処理して責めて育てる上司などに出会い、色々と教えていただいたものだが、establishな会社を経験しないとこういう「いい上司、いいマネージャー、いい部長」のような人は意外といないものだと(もちろんそういう会社の全ての人がそういうわけじゃないけれど)思う。また、こういう「いい上司」を見ていなければ、ロールモデルとしての「マネージャー/管理職」が感覚的にもわからないので、そういう人たちのもとで働いた経験がないと、「マネージャーは自ら動く人」的に理解できないだろう。
アメリカで発売された、広告業界のマネージメントの本に面白いことが書いてあった。
Managers must bring people together to work toward a common goal.
マネージャーはみんなと共通のゴールに向かわせるようにつとめなければならない。
Managers must hire good people who often do the real work.
マネージャーは本当に仕事ができる人々を雇うようにしなければならない。
Management is not telling other people what to do. Management is convincing people to use their individual abilities and talents to work toward a common goal.
マネージメントとは他の社員に何々をしろという仕事ではない。マネージメントの仕事とは、部下に個々の能力を使って共通の目標に進むように確信させることである。
Management is not hiring employees and then firing those who don't work out. Management is finding the best employees who can be afforded within the budget and providing those employees with the resources necessary to complete their assigned tasks. In fact, when an employee must be fired, it is also a failure of management because management either did not hire the right person or did not provide the proper training, motivation, or guidance to make that employee productive.
マネージメントの仕事とは、人を雇ったり、働かない人をクビにしたりすることではない。マネージメントは予算の許す範囲でベストな社員を探し、そうした社員に与えられた仕事を遂行するために必要なリソースを与えることである。実際のところ、クビにしなければならない社員がいるということは、マネージメントの失敗ということである。なぜならそれは正しい社員を雇わなかった、適切なトレーニングやモチベーションや、オリエンテーションを社員の生産性をあげるために行わなかった、ということだからだ。
Management is not threatening employees and watching their every move to make sure they are working. Management is hiring good people who have certain skills and then letteing those people do their work in their own best ways to contribute to the company and to our nation and society.
マネージメントの役割は、社員を脅すことでも、彼らがちゃんと働いているか一つ一つを監視することではない。マネージメントとは、スキルをもった人物を雇い、そうした人々を会社や国や社会に貢献できるよう、彼らが一番能力を発揮できる方法で仕事ができるようにすることである。
こうしたマネージメント/マネージャーの役割を見ると、上記のようなことを行える上司がいる会社は辞めるような気がしないわけだが、優秀な社員ほど、できない上司がいると外に飛び出して行く。「こういう上司がいると会社を変えようと思っても無理だな」とか、上司の舵取り能力を見抜いてしまうと、どれだけ好きな会社であったとしても、会社の可能性について疑問を抱いてしまうからだ。その舵取りに反対をし、結局は干された状態を長く経験した一方、辞める人材が増えるのを見ていると、その間取られた”舵”についての結果が出たのだろうとも思う。
また会社というのはもちろん複数の部署で構成されているわけだが、他部署の行う施策で、「この会社らしくない」と思うものがあったり、文字通り癌になるような人物がいると、同じように会社の可能性に疑問を抱いてしまう。
優秀でかつその会社を愛している人間ほど、上記のような人々が増えた会社については、「長居したくなくなる」わけで、それは自分が好きだった会社が“強姦”、“蹂躙”されているような気持ちになるからだ。
もちろんどこかで再び魅力的な職場になって欲しいと、"OB/OG"たちは願う。しかし、その一方で、辞めることを決めた人々の気持ちもわかるし、そういう人たちが辞めれば辞めるほど、魅力的な職場への回帰は難しく、魑魅魍魎、跳梁跋扈な状況が続くのではないかという複雑な気分になる。
強烈な cash cow を持つ会社は、ビジネス的に傾くことはそうそうない。
しかしそれが従来的な意味の営業努力の結果ではなく、マーケットニーズによるナチュラルな成長率によるものだと、人材のスキルが伸びず、“甘い”人材しか残らないし、チャレンジする人材ほどそういった甘さに嫌気がさし、辞めていく。結果、“現状を維持”するための人材が多くなってしまい、次のビジネスを作る人材が育たない。
また、チャレンジをする、志を持って集まった人々によってそのブランドについて語られことが減る、という弊害もある。結果として、外に出て話をするスピーカーが「なんでこの人がこの話を?」という違和感感じる人になってしまう。愛をもってその会社について話ができない人が、大きな舞台で話をすればするほど、その他社員は「売名行為?」としか思えないわけで、ますます、会社や組織に対する不信感を募らせる。で、やはり、この会社が悪いスパイラルに入ったのを自分では変えられないな、変わらないな、ここは自分が入った会社とはもう違う会社になったな、と思って辞めてしまう空気を作ってしまうのだ。
辞めたくなる会社、というのは、「この会社は好きなんだけど、辞めたくなる会社」のことだと思う。
これに歯止めをかけるのは組織のマネージャーの決断以外、他にない。
しかし、残念。
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