スタニスワフ・レムによる、<実在しない本>の書評集。
あたかもその本が名著として存在するかのような16冊のSF、純文学etcの書評が収められているが全て実在しない。
最初、タルコフスキーが映画化し、スティーブン・ソダーバーグ監督によって近年リメイクされた『惑星ソラリス』の原作『ソラリスの陽のもとで』を書いたスタニスワフ・レムは、あの映画がある種のイマジナリな世界だったように、<実在しないモノ>を書くのが得意な作家だったようだ。他にも『虚数』といったタイトルの本を書いたように。
こうした、<実在しないモノ>を書くという作業は、架空の物語を想像する、ということから始まるのだろう。当然、既に存在するリニアな活字の塊=文章を読むわけではないので、自らの頭の中でそれを生み、つむぎ出し、そして、読む。それを文章に書きとめる、という作業だ。
学生時代に買ったこの本を今の立場で手に取ると、マーケティングや広告のプラニングとはまさにこうした作業によるものではないかと感覚的に思ってしまった。
企業が生み出す、商品やサービスといったものは、それらが生活者にとって手にされるまで、それぞれの人にとってはそれらとの<物語が存在しない>。それらをあたかもすでに存在している物語のように「あなたの生活はこうなります」といった<物語>を提示することがマーケティングや広告の作業なのではないだろうか(少なくともそのように教えられた時期が僕にはあった)。
書評が、ある書籍に対する批評である、推薦であるのと同じように、広告とはそういったものであり、商品が手にされる前の<実在しない物語>を実在するために行う作業と、ひとつ、考えてみたいものだ。
最近のコメント